ヨーコさんの文字はおおらかで大胆、そして優しい空気をまとっている。
手紙やあいさつ文、またご祝儀、中元・歳暮の宛名書きなどなど。ヨーコさんがペンを持つ姿をしょっちゅう目にしてきた私は、その独特の文字はユニークでもあり、まさにヨーコさんにぴったりの文字だと思っている。
ヨーコさんのいつもの声。「小山田さん、筆ペン筆ペン」と彼女のマネージャー的な役割を長年してきた小山田さんに筆ペンと半紙を持ってこさせると、さらさらと私の前で「お祝い Yoko増田静江」と書き上げた。
「ヨーコさんの文字凄くいいですね」と私が言うと、ヨーコさんはフフフと少し笑って「昔ね、自分の文字が嫌いだったから百人一首をお手本にして
練習したのよ」と。
「百人一首か」と、私は妙に納得した。
そう言えば、ヨーコさんは和歌が好きでよく口ずさんでいた。
その理由について彼女は『昔の人も人には言えない悩みを秘めながら、毅然と人生を生きていたのだと勇気づけられるから』と文章に残している。
ヨーコさんの書き残したものを調べてみると、30代に書いた文章の文字は全く別人のものだった。
どちらかと言えば角ばって固くとげとげしい感じさえある。
ヨーコさんは、若い頃の自分は完ぺき主義で細かいことを気にし過ぎ、いつも悩みを抱えていた、と言っていた。和歌をお手本にしたのも文字だけでなくそんな自分を変えたいとの思いがあったのかなと思う。
そして、ヨーコさんは歳を重ねながら文字とともに変わっていった。
人は努力すれば自分のなりたいように変化していくことができるのだと思うと私にもかすかな希望が湧いてくる。
ヨーコさんが友人に宛てて描いた絵手紙(二樹洋子はヨーコさんのペンネーム)